バリの祈りと暮らし

バリ島のガムランとは?主な楽器とウブドでの楽しみ方|20回以上観て気づいた奏者の「合図」

バリ島で舞踊公演を観るとき、踊り手の後ろで演奏しているガムランに注目したことはありますか。

私たちはバリ島に30年ほど通い、そのうちウブドには20年以上滞在してきました。長期滞在も8回あり、そのたびにさまざまな楽団の演奏を聴いてきました。中でもスマラ・ラティの公演には、これまで20回以上足を運んでいます。

この記事は、ガムランを初めて聴く方や、ウブドで舞踊公演を楽しみたい方に向けたものです。主な楽器の特徴、楽譜を見ずに演奏できる理由、奏者同士の合図、ウブドでの鑑賞のコツを、実体験をもとに紹介します。

ガムランは打楽器中心のバリの合奏音楽。音の重なりと奏者の合図に注目すると面白い

バリ島のガムランは、金属製の鍵盤楽器やゴング、太鼓を大勢で演奏する伝統の合奏音楽です。速いリズムと、急に強くなったり弱くなったりする変化が特徴です。

ウブドで鑑賞するときは、次の4点を知っておくと楽しみが広がります。

  • 音の重なり:複数の奏者が音を分担し、一つの速い旋律をつくり出している。
  • 楽譜を見ない演奏:奏者たちは曲を体で覚え、楽譜なしで息を合わせている。
  • 奏者同士の合図:目配せや身振りで曲の始まりや変化を伝え合い、踊り手に合わせて緩急をつけている。
  • 奏者の幅広い技量:複数の楽器を演奏したり、踊りも披露したりする人がいる。

ガムランとは?|バリ島の伝統音楽と主な楽器

ガムランは、インドネシアのバリ島やジャワ島などに伝わる合奏音楽です。2021年にはユネスコ無形文化遺産に登録されました。

同じガムランでも、地域によって響きは大きく違います。ジャワ島のガムランはゆったりと落ち着いた演奏が多いのに対し、バリ島のガムランは速いテンポと、激しい強弱の変化が特徴です。

バリ島では、寺院の儀式や祭礼、伝統舞踊の伴奏など、暮らしのさまざまな場面で演奏されています。

出典:ユネスコ無形文化遺産「Gamelan」

私たちが初めてガムランだけの曲を聴いたのは、スマラ・ラティの公演でした。緩やかに始まったかと思うと一気に速く激しくなり、ぴたりと止まる。まるでジャズのセッションのような緩急に、帰り道でも体が自然と揺れていたほどです。

【関連記事】初めてガムランだけの演奏を聴いた夜のことは、こちらで詳しく紹介しています。
▶︎ スマラ・ラティならではの、ガムラン演奏だけの演目

ガムランを構成する主な楽器

ウブドの舞踊公演で見られるガムランには、形も音色も異なる楽器が使われています。

バリ島のガムランで使われる主な8種類の楽器を紹介するイラスト。ガンサ、レヨン、ウガル、ゴング、クンダン、チェンチェン、ジュゴグ、スリンの形と、それぞれの音色や役割を説明。

バリ島のガムランを構成する主な楽器。金属製の鍵盤楽器やゴング、太鼓、竹笛などが音を重ね、独特の響きを生み出します。

⚠️楽器の種類や役割は、ガムランの編成によって異なります。

出典:ニューサウスウェールズ大学「バリのガムランの楽器と役割」

高速の演奏を生み出す「コテカン」

バリのガムランには、「コテカン」と呼ばれる独特の奏法があります。複数の奏者が異なる音を交互に打ち、組み合わせて一つの細かな旋律をつくる方法です。

一人で弾いているように聞こえる速い旋律も、実は2人以上の奏者が音を分け合っています。ガンサの奏者たちが目にも留まらぬ速さでバチを動かし、ぴたりと噛み合った音を生み出す様子には圧倒されます。

ガンサの奏者は、片手のバチで鍵盤を打ちながら、もう一方の手で直前の音を押さえて響きを止めています。打つ手と止める手が目を見張るほど速く正確に動くので、音が濁らずに一つひとつはっきり聞こえるのです。奏者の後ろや横から見ると、この手さばきがよくわかります。

出典:香港政府音楽事務所「Balinese Gamelan」

ホテルで聴くリンディックもガムランの一種

バリ島のホテルのロビーで、伝統的な竹製楽器リンディックを演奏する男性。装飾された2台のリンディックが並んでいる。

バリ島のホテルのロビーで演奏されるリンディック。Photo by CEphoto, Uwe Aranas / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

バリ島では、ホテルのロビーやレストランでも伝統音楽の生演奏を耳にすることがあります。私たちも、2人ほどの奏者が演奏している光景を何度も見かけました。

こうした場所でよく演奏されるのが、竹製の鍵盤楽器「リンディック(Rindik)」です。広い意味ではガムランの一種で、「ガムラン・リンディック」とも呼ばれます。

リンディックは柔らかく穏やかな音色です。一方、舞踊公演で聴ける大編成のガムランは、金属音が重なり合う力強い響きです。ホテルでリンディックを聴いたことがある方は、ぜひ舞踊公演のガムランと聴き比べてみてください。

出典:
インドネシア政府観光省「リンディックの伝統芸能」
バリ州観光関連サイト|Bali Music

楽譜を見ずに演奏するガムラン|なぜ大勢で合わせられるのか

私たちがウブドで観てきた公演では、楽譜を見ながら演奏している奏者を一度も見たことがありません。テンポが急に変わる曲でも、細かなリズムが続く曲でも、奏者の前に楽譜は置かれていないのです。

ガムランにも楽譜はある

ガムランに楽譜がないわけではありません。バリには、ding・dong・deng・dung・dangといった音名をバリ文字で書き記す記譜法があります。ただ、日常の中での学びや学校教育などを通じて、世代から世代へ受け継がれています。

出典:ユネスコ無形文化遺産|Gamelan

もちろん、すべてのガムランが同じ方法で教えられているわけではありません。私たちが感心するのは、楽譜を見ないことそのものより、これほど複雑な曲を大勢でぴたりと合わせられることです。

スマラ・ラティの公演では、創設者アノム氏のお孫さんがバリスを舞ったことがあります。アノム氏によれば、正式に教わったというより、祖父の舞を見よう見まねで覚えたのだそうです。

踊りの話ではありますが、バリの芸能が「見て、まねて、覚える」形で受け継がれていることを実感した出来事でした。
▶︎ アノム氏のお孫さんが舞った夜のこと

幼い頃から身近にある伝統芸能

バリ島ウブドのクニンガンで、バロンを先頭に、太鼓やシンバルなどの楽器を演奏しながら通りを練り歩く子どもたちの行列。

クニンガンの日にウブドで見かけた、子どもたちによるバロン行列

バリ島ウブドで伝統舞踊を練習する子どもたち。屋内と屋外で、手や腕の動きをそろえながら踊っている様子を並べた写真。

ウブドで見かけた子どもたちの伝統舞踊の練習風景

楽譜なしで演奏できる背景には、子どもの頃から音楽や踊りが身近にある暮らしがあると感じています。

印象深く覚えているのは、クニンガン(バリの祝祭日)のあとに見た、楽器を操りながら練り歩く子どもたちによるバロン行列です。また、ウブド王宮前で、子どもたちが踊りを練習している姿を見かけたこともあります。

その光景が心に残っていたので、宿泊先のホテル「ラササヤン」の若いスタッフに「あなたもできますか?」と尋ねてみました。返ってきたのは、3種類の楽器を演奏でき、踊りもできるという答え。さらに、「あまり上手ではないけれど」と言いながら、絵も描けるというのです。

一人のスタッフとの会話ではあります。それでも、バリの人々にとって伝統芸能は特別なものではなく、暮らしの一部であることを実感した出来事でした。

ガムランや舞踊は、舞台だけでなく寺院の祭礼や葬送の場でも奉納されます。私たちも、葬式の前夜に蝋燭の光の中で舞が奉納される様子に立ち会ったことがあります。
▶︎ プレボン前夜|蝋燭の光の中で奉納されたワリ舞踊

バリ島ウブド王家の葬式前夜に奉納された伝統舞踊。華やかな衣装の踊り手の後ろで、奏者たちがガムランを演奏している。

ウブド王家の葬式前夜に奉納された舞踊とガムラン演奏

演奏者同士の合図|スマラ・ラティで気づいた指揮者のような役割

スマラ・ラティは、ウブドのクトゥ村から始まった舞踊団です。7〜8ほどの演目のうち1〜2演目が踊りを伴わないガムラン演奏で、奏者たちが舞台の主役になる時間があります。

初めて聴いたガムランだけの演目で気づいたこと

舞踊公演では、どうしても踊り手に目を奪われてしまいます。ところが20年ほど前、スマラ・ラティで初めてガムランだけの演目を聴いたときは、自然と奏者たちの動きに目がいきました。

そこですぐに気づいたのが、指揮者のような役割をしている奏者の存在です。楽団の中央に座るその人は身振りが大きく、誰よりも演奏を楽しんでいるのが伝わってきます。その姿に、私たちはとても感動しました。

奏者たちが微笑みを交わしながら演奏する様子は、以前の記事でも紹介しました。ここでは、演奏を導く「合図」に注目して紹介します。
▶︎ スマラ・ラティならではの、ガムラン演奏だけの演目

目配せや首の動きで演奏を導く

その奏者は、金属製の鍵盤楽器を演奏しながら、左右の奏者に鋭い視線を送っています。演奏の始まりや曲の節目では、目や首の動きで合図を出します。ほかの奏者たちも、その人を何度も見ながら演奏しているのです。

舌を巻くのは、高速でバチを動かしている最中にも合図を送り続けていることです。テンポが変わる場面や、音が一斉に止まる瞬間には、大勢の奏者がぴたりと息を合わせます。

このことに気づいてからは、ほかの楽団の公演でも「誰が演奏全体を導いているのか」を探すようになりました。

踊り手に合わせて緩急をつける奏者たち

ガムランだけの演目で奏者の動きを知ってからは、舞踊を観るときにも奏者に目を向けるようになりました。すると、奏者たちが踊り手の動きに合わせて、演奏の速さや強弱を変えていることにも気づきました。

ガムランは、決まった曲をただ伴奏しているのではありません。踊り手と呼吸を合わせながら、その場で音楽をつくっているのです。

ガムランでは誰が指揮をするの?

バリのガムランでは、クンダン(太鼓)の奏者が演奏を導き、踊り手と呼吸を合わせる役割を担います。また、ほかの楽器の奏者が演奏を導く役割を果たす場合もあります。スマラ・ラティでは、画像のように、ウガルと思われる鍵盤楽器の奏者がこの役目をしていました。

スマラ・ラティのガムラン演奏。中央の奏者が金属製の鍵盤楽器を演奏し、周囲の奏者と息を合わせている様子。

スマラ・ラティのガムラン演奏。中央の奏者は、演奏しながら周囲に視線や仕草で合図を送っていました。

出典:ニューサウスウェールズ大学|ガムランの楽器と演奏上の役割

同じ楽団でも担当楽器が変わる|演奏と踊りをこなす人もいる

同じ楽団を別の日に観ると、前回とは違う楽器を演奏している人がいることに気づきます。一つの公演の途中で担当楽器を替える人もいれば、演奏していた人が別の演目では踊り手として登場することもあります。

私たちは当初、ガムランの奏者は一人ひとり担当楽器が決まっているものだと思っていました。ところが実際には、複数の楽器を演奏できる人も少なくないのです。

すべての奏者が同じように複数の役割をこなせるわけではありません。それでも、同じ人が楽器を持ち替え、ときには踊りまで披露する姿には、その技量の幅広さを感じずにいられません。

ウブドでガムランを聴くなら|奏者が主役になる公演を選ぶ

ウブドでは、王宮をはじめ周辺の寺院や集会場で、ほぼ毎晩のように舞踊公演が行われています。ただ、多くの公演ではガムランは踊りの伴奏として耳に入ってくることがほとんどです。

ガムランそのものをじっくり聴きたいなら、演奏だけの演目がある公演を選ぶのがおすすめです。私たちがウブドに行くと毎週のように通っているのが、土曜夜のスマラ・ラティです。

奏者の手元や合図を見たい日は、最前列の端か舞台の横に座ります。正面奥の席だと、奏者は踊り手の陰に隠れて見えにくくなるためです。

【関連記事】公演日、会場、料金、到着時間のめやす、席の選び方は、こちらにまとめています。
▶︎ スマラ・ラティ鑑賞のコツ|席・到着時間・持ち物・トイレ

ガムランを鑑賞するときの注目ポイント

公演の中でも、場面によって注目したいところは変わります。

  • ガムランだけの演目:踊りがない分、楽器ごとの音や奏者の動きに集中できる。
  • テンポが急に変わる場面:クンダン(太鼓)とウガルの奏者を見ると、変化の合図がわかることがある。
  • 音が一斉に止まる瞬間:止まる直前に、奏者たちがどこを見ているかに注目する。
  • 踊りに合わせた緩急:踊り手の動きに合わせて、演奏の速さや強弱がどう変わるかに注目する。

まとめ|次にウブドで公演を観るときは、奏者が見える席を選ぼう

ガムランは、聴くだけでなく「見る」ことで面白さが何倍にも広がる音楽です。次にウブドで舞踊公演を観るときは、次のことを試してみてください。

  1. 前方の端の席を選ぶ:踊り手だけでなく、奏者の手元や表情まで見える位置に座る。
  2. ガムランだけの演目がある公演を選ぶ:最初は音の迫力を楽しみ、次に奏者の動きを追う。
  3. 合図を出している奏者を探す:テンポが変わる場面や、音が止まる直前に注目する。
  4. 同じ楽団をもう一度観る:担当楽器が替わっていないか、踊り手として登場する奏者がいないかを確かめる。

私たちは20年ほど前、スマラ・ラティのガムランだけの演目で奏者の合図に気づきました。それからは舞踊公演でも奏者に目を向けるようになり、楽しみが大きく広がりました。ウブドを訪れたら、ぜひ踊り手の後ろにいる奏者たちにも目を向けてみてください。

【関連記事】奏者が主役になる時間があるスマラ・ラティの公演情報と鑑賞のコツは、こちらで紹介しています。
▶︎ スマラ・ラティ舞踊団|バリ舞踊とガムランの魅力・席選び

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この記事は、筆者がウブドで鑑賞したガムラン公演や現地での会話をもとに、公開資料を参考にしてまとめたものです。演奏者の動きや担当楽器などは筆者が観察した内容であり、すべての楽団に共通するものではありません。
楽器の構成、演奏方法、合図の出し方などは、楽団や演目によって異なります。スマラ・ラティの奏者については、筆者が実際に見た様子を記述しており、正式な楽器名や役割を楽団に確認したものではありません。

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