バリの祈りと暮らし

バリの葬式「ガベン」とは?意味と流れ、観光客の見学マナー|ウブドで見た王家のプレボン

ウブドを歩いていると、ガムランの音とともに、祭りのように華やかな行列に出会うことがあります。バリの葬式「ガベン」の葬列です。

日本の葬儀とはまったく雰囲気が違うので、「見学してよいのだろうか」「写真を撮ってもよいのだろうか」と戸惑うかもしれません。

この記事は、バリ島・ウブドを訪れる方に向けて書きました。ガベンの意味と流れ、王族のガベンである「プレボン」との違い、見学のマナーが分かるようにまとめています。

2026年10月時点の情報と私たちの体験にもとづいています。儀礼の進め方や見学できる範囲は、地域や家族、そのときの状況によって異なります。現地の案内を優先してください。

葬列に出会ったら、祈りの場として距離をとって見守る

ガベンは、故人の魂を次の世界へ送り出すバリ・ヒンドゥー教の火葬儀礼です。華やかに見えても観光イベントではなく、家族と村にとって大切な祈りの時間です。

街なかの葬列は道の端から見守れることが多いものの、場所や儀礼によって立ち入れる範囲は異なります。私たちが心がけているのは、次の4つです。

  • 行列の前を横切らず、進行を妨げない
  • 大声で話したり騒いだりしない
  • 祈りの最中や遺族の近くでは、カメラを向けない
  • 迷ったら、現地の人やホテルスタッフに確認する

バリの葬式「ガベン(Ngaben)」とは

死を旅立ちと捉える「ガベン」

外から見ると祭礼のように感じられる、バリの葬式「ガベン」。葬列に音楽や色彩があふれているのは、死を終わりではなく「旅立ち」と捉えているからです。

バリ・ヒンドゥー教では、肉体は地・水・火・風・空の5つの要素からできていると考えられています。火葬は、肉体をこの5つの要素に返し、魂を解き放つためのものです。

ガベンはすぐに行われるとは限りません。ガベンには多くの人手と費用がかかり、日取りも暦で吉日が選ばれます。そのため、亡くなってすぐではなく、準備が整ってから行われることもあります。それまでの間、遺体はいったん埋葬されることもあります。

ガベンの一般的な流れ

地域や家柄によって違いはありますが、一般的なガベンはおおまかに次のように進みます。王家の葬送儀礼「プレボン」にも共通する部分がありますが、規模や儀礼の内容は異なります。

  1. 準備:塔(バデ)や棺、お供えを、家族や村の人々が用意します。
  2. 儀礼の準備と祈り:日取りに合わせて、供物を用意し、必要な儀礼や祈りを行います。
  3. 行列:遺体を乗せたバデを大勢で担ぎ、ガムランとともに火葬場へ向かいます。交差点で塔を回すのは、魂が家に戻らないよう方向を惑わせるためだと言われています。
  4. 火葬:牛などをかたどった棺(ルンブー)に遺体を移し、火をともします。
  5. 遺灰を海や川へ:遺灰は海や川へ流され、自然に返されます。

準備から火葬までの実際の様子は、後半の「ウブドで見た王家の葬儀プレボン」で紹介します。

ガベン・マサルとプレボン|ガベンにもいろいろある

村で支える合同葬儀「ガベン・マサル(Ngaben Masal)」

地域によっては、村単位で複数の故人をまとめて火葬する「ガベン・マサル」も行われます。費用や負担を村で分け合う形です。私たちが滞在したプンゴセカン近くの村では、数年に一度、広場いっぱいにバデが並び、村中が祈りと音楽に包まれていました。

王家の葬儀「プレボン(Pelebon)」

王族や高位の人のガベンは「プレボン」と呼ばれます。ウブド中心部のプリ・サレン王宮 (Puri Saren Ubud)では、王家に関わるプレボンが行われることがあり、王宮周辺の道路や街全体を巻き込む大きな行事になります。

私たちも10年近く前、その一つを準備段階から火葬まで見ることができました。その体験も後半で紹介します。

私たちが見たガベンとプレボンの違い

項目 ガベン(一般) プレボン(王家)
主な対象 一般の人々 王族・王家関係者
規模 家族や地域によって異なる 王宮周辺を中心に大規模
私たちが見た様子 街なかで時々葬列に出会った 準備・奉納舞踊・行列・火葬まで見学
印象 暮らしの中にある葬送儀礼 街全体を巻き込む大きな儀礼

観光客が見学するときのマナー

行列を妨げず、静かに見守る

バデやルンブーを大勢で担いで進む場面では、周囲がかなり慌ただしくなります。行列の前を横切ったり、進行方向に立ち止まったりせず、少し離れて見守るようにしています。祭礼のように見えても故人を送り出す儀礼なので、騒がず静かに見学します。

写真撮影は周囲の様子を見ながら

公開された場所では撮影している人も多く、実際私たちも写真を撮ります。ただし、以下のようなことに気をつけています。

  • フラッシュを使わない
  • 三脚など大きな機材を広げない
  • 祈りの最中や遺族のすぐ近くではカメラを向けない
  • 迷ったら、係の人や現地の方に確認する

服装は「露出を控えめに」

街歩きの途中で偶然葬列に出会った場合は、そのときの服装のまま、道の端から静かに見守ればよいと思います。

プレボンのように街を挙げて行われるガベンは、事前に日程が分かることがあります。あらかじめ分かっているなら、少し控えめな服装で出かけるのも一つの心づかいです。どこまで気にするかは、人それぞれでよいと思います。

ただし、儀礼に参列したり、寺院や王宮の中に入ったりする場合は別です。サロン(腰布)とスレンダン(帯)が必要になることがあるので、主催者や宿泊先に確認してください。

【関連記事】祭礼や寺院を見学するときの服装に迷う方もいると思います。考え方や実際の対応をまとめた記事も参考にしてください。
▶︎ バリ島の正装と服装・観光マナー|寺院参拝・行事で失礼にならない基本

街歩きの途中で出会ったガベンの葬列

ある日ウブドの通りを歩いていると、どこからともなくガムランの音が聞こえてきました。近づくにつれて、正装した人々の列がゆっくり進んでくるのが見えます。花やお供えを手に語り合いながら歩く姿は、祭礼の行列のように華やかでした。

横にいた現地の女性に尋ねると、「ガベン」と教えてくれました。突然現れた華やかな葬列に、いつもの日常が少し遠のいていくような、不思議な時間が流れていきました。

ウブドで体験したプレボン

プレボンの準備から前夜まで

ウブドのテガルサリ(Tegal Sari Accommodation)に長期滞在していると、さまざまな行事に出会います。その一つがプレボンでした。

【関連記事】テガルサリは地元スタッフが多く、葬儀をはじめバリの行事について教えてもらえます。滞在の様子や使い勝手などをまとめた記事があります。
▶︎ ウブド・テガルサリで1か月暮らすように過ごせる理由と注意点

王宮近くで始まった壮大な準備風景

ある朝、プリ・サレン王宮近くを散策していると、多くの地元の人々が集まっていました。通りにいた人に聞くと、プレボンの準備をしているということでした。

王宮横のスウェタ通り(Jl. Suweta)は交通が遮断され、普段は観光客やバイクが行き交う場所が、作業をする人々でいっぱいになっていました。

巨大なバデが組み上がっていく

スウェタ通りではバデの組み立てが始まっていました。大勢の男性たちが集まり、竹や木材を肩に担いで次々と運び込みます。動きには無駄なく、息を合わせて骨組みを組み上げていく姿が印象に残りました。

私たちが見たバデは、見上げるほどの大きさでした。

青いシートと竹の足場に囲まれた大きな火葬塔を、通りから見上げている様子。

どのようなバデになるのか、制作段階から目を奪われました。

午後には塔の全貌が現れ、金箔を貼る人、布を巻く人、細部を整える人たちが忙しく動いていました。朝から少しずつ形になっていく様子を見ていると、これほど大きな儀礼を多くの人が支えていることが伝わってきました。

バリ島の葬送行列で使われる、色鮮やかな大きな火葬塔が通りに立ち、人々が周囲に集まっている様子。

バデを完成させるための巨大な足場が白く塗られるなどしているのも印象的

女性たちが、次々と正装姿でお供えの入ったソカシ(竹などで編んだカゴ)を持ち寄る姿もありました。

プレボン前夜|蝋燭の光の中で奉納されたワリ舞踊

プレボンの前夜、王宮の中庭では蝋燭の光の下で、奉納舞踊「ワリ舞踊(Wali Dance)」が始まりました。観光客向けの公演ではなく、儀礼の一部として行われる舞踊です。

ホテルのスタッフによると、踊るのは選ばれた舞踊家たち。翌日の葬儀が滞りなく行われるよう神々へ願う、「前夜の祈り」の舞なのだそうです。多くの観光客が取り巻くなか、王族関係者や地域の人々が見守っていました。

夜が更けるころにバリスが始まり、続いて金色の衣装をまとったレゴンの舞踊家たちが登場しました。

赤い舞台の上で、伝統衣装を身につけた男性がバリスを踊り、後ろでガムラン楽団が演奏している様子。

魂のこもった見事なバリスの舞

金色の伝統衣装を身につけた女性たちが、ガムラン楽団の前でレゴンダンスを踊っている様子。

舞踊公演とは違った、華麗で荘厳なレゴンダンス

普段、舞台公演として見ていたバリ舞踊が、祈りや儀礼の中で踊られている。その光景を目の前にして、私たちはバリ舞踊の見え方が少し変わりました。

最後に僧侶が祈りを捧げ、ガムランの音が静かに止むと、夜の王宮に深い静寂が訪れます。

【関連記事】こうした奉納の舞が現在の舞台公演にどのように受け継がれているのかを知っておくと、ウブドでスマラ・ラティの公演を鑑賞するときにも、舞踊への理解がより深まります。
▶︎ スマラ・ラティ舞踊団|バリ舞踊とガムランの魅力・席選び

プレボン当日|白と黒の牛「ルンブー」と巨大なバデの行列、火葬

ルンブーとパデの行列

翌朝、太陽が昇ると同時に、数千人はいたかと思うほどの人々が王宮前に集まっていました。お供えを用意して参列のために待機する女性や子どもたち、祈りを捧げる男性たち。見たこともない数の、お供えの入ったソカシに、人々の思いの深さを感じました。

やがて現れたのが、白と黒の牛をかたどったルンブー(Lembu)です。その後を、男性たちに担がれた巨大なバデが続きました。

塔が揺れながら進むたびに歓声やガムランの音が響き、私たちの隣では、現地の年配の女性が静かに手を合わせていました。

葬送行列で、黒いルンブーが大きな火葬塔を先導して進んでいる様子。

ルンブーがバデを先導

葬送儀礼で、黄色い火葬塔の周りに白い正装をした人々が集まっている様子。

黄色いバデが、白い正装姿の人々に囲まれるように進み、厳かな空気が漂っていました。

ウブドの通りを、白と黄色の正装をした人々が供物を持って行列で歩いている様子。

見送る人の数はさらに増えていきました

巨大なバデ(塔)が通るため、邪魔になる電線は一時的に切断されていました。その影響で周囲のショップは停電となり、しばらく営業を止めていたほどです。

この儀式が地域にとってどれほど大きな行事なのかを実感しました。

火葬の場で

火葬場に着くと、塔から降ろされた遺体がルンブーへ移されていきました。祈りが続く中、やがて火がともされます。

炎、ガムランの音、祈り、漂う香り。

私たちは、少し離れた場所からその光景を静かに見守りました。私たちが見た人々の表情から伝わってきたのは、涙よりも静かな祈りでした。日本の葬儀に慣れ親しんだ私たちにとって、故人の送り出し方の違いを深く感じた時間でした。

【関連記事】儀礼や行列の見学では、人混みの中を歩くこともあります。足元や交通、急なトイレが心配な方は、こちらの記事も参考にしてください。
▶︎ ウブドの街歩き|通り別の歩きやすさと足元・横断・夜道の注意点
▶︎ ウブドのトイレ事情|紙は流せる?公共トイレは?

葬送儀礼を通して感じた、バリの祈りと生き方

私たちが特に強く感じたのは、ガムランや舞踊が、観光のためだけにあるものではなく、祈りや儀礼と深く結びついていることでした。奉納舞踊を実際に見てからは、舞台でバリ舞踊を見るときにも、その背景にある祈りを以前より意識するようになりました。

ガルンガンやクニンガン、日々の供物、寺院の祭礼なども含め、ウブドで長く過ごすうちに、宗教行事が特別な日だけのものではなく、日常の暮らしとつながっていることを少しずつ感じるようになりました。

【関連記事】ガルンガンからクニンガンまでの期間も、街の飾りや寺院への祈りを通して、バリの暮らしと信仰を身近に感じられる行事でした。
▶︎ バリのガルンガンとクニンガン|10日間の流れと過ごし方や見ておきたい風景

バリ島の葬儀・プレボンQ&A

Q. 観光客でも葬式やプレボンを見学できますか?

街なかの葬列は、道の端から見守れることが多いです。ただし、家の敷地や火葬場の中など、立ち入れる範囲が限られることがあります。分からないときは、ホテルスタッフや現地の人に確認しています。

Q. 開催情報はどこで知ることができますか?

私たちは宿泊先のスタッフから教えてもらいました。大きなプレボンでは、現地の掲示や観光案内、SNSなどで情報が出ることもあります。

Q. 火葬の後、遺灰はどうなるのですか?

遺灰は海や川へ流され、自然に返されるのが一般的です。

まとめ|ガベンに出会ったら、祈りの時間であることを忘れずに

ガベンは、肉体を自然に返し、魂を次の世界へ送り出すための葬送儀礼です。華やかな行列の中心には、故人への祈りがあります。ウブドで葬列に出会ったら、次のことを意識してみてください。

  • 行列の前を横切らず、少し距離をとって静かに見守る
  • 撮影はフラッシュなしで。祈りの場面や遺族には向けず、迷ったら確認する
  • 見学だけなら服装はそのままで。参列したり寺院や王宮に入ったりするなら、サロンとスレンダンを用意する
  • 日程は直前に決まることが多いので、滞在先のスタッフに「近くでガベンはある?」と聞いてみる

私たちも最初は、どこまで近づいてよいのか分からず戸惑いました。けれど、現地の人に尋ねながら見守るうちに、バリの暮らしと祈りを身近に感じるようになりました。

【関連記事】バリ島では、葬式のほかにも一年を通してさまざまな行事があります。
▶︎ バリの祈りと暮らしカテゴリー一覧

【この記事を書いた人|じゃんぱらぎ夫婦】
ウブドに滞在を始めて20年以上になり、この15年間は、8回ほど長期滞在を繰り返しています。そんな中で、葬列に出会うことも珍しくなく、華やかな列に、死への向き合い方の違いを感じます。短い観光では気づきにくいバリの姿を、夫婦でウブドに滞在しながら感じたまま、できるだけそのままお伝えしています。

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