バリ島で最も神聖とされる10日間、それが「ガルンガンからクニンガン」にかけての日々です。
街路に並ぶペンジョールが風に揺れ、人々の祈りに触れることで、観光だけでは知り得ない「暮らしと信仰の重なり」を実感しました。
シニア世代ならではの穏やかな楽しみ方を、実際の体験を交えてご紹介します。
初めて目にしたペンジョールの風景
バリを紹介する旅行雑誌などに、必ず載っているペンジョール。村を彩るペンジョールの風景はバリの代名詞のようなもの。

ところが30年前、初めて訪れたバリではその姿を見つけられず、「一体どこへ行けば見られるのだろう」と不思議に思ったものです。
ある年、ウブドに滞在中散歩にでると、通りにはあのペンジョールの連なりが。
夫は夢中でカメラを構え、私はなぜ今日立てられるのか知りたくてホテルのスタッフに尋ねました。
すると「ペンジョールはガルンガンの祭礼に立てるんです」と教えてくれ、祭礼と結びついていることを初めて知ったのです。
「バリ本来の表情」を見ることができるこの時期の旅が忘れられず、以来、ガルンガンからクニンガンを旅の予定に組見込むようになりました。
若い頃は「一番きれいな景色を見に行こう」と駆け回っていましたが、今では散歩や車窓から眺めるだけで、旅は十分に満たされることを知りました。
バリが祈りに染まる10日間
「信仰の島」と呼ばるバリ。ガルンガンからクニンガンまでの10日間は、暮らしと祈りが最も濃く重なり合うときです。旅行者である私たちも、非日常の世界に引き込まれました。
特に裏通りを歩くと、表通り以上にペンジョールが幾重にも重なりあい、日常に根ざした伝統を強く感じることができます。

ウブド周辺には、素晴らしいペンジョールをみることのできる村もあります。公共交通機関TDMでデンパサールに出かける途中で見かけたものは、ウブドでは見ることができない手の込んだ立派なものでした。

ガルンガンの準備と祈り
「ガルンガン」は210日ごと(必ず水曜日)に繰り返されます。神々が地上に降り、祖先の霊が家族のもとに戻ってくる日とされます。
数日前から家々では準備が始まり、前日には道の両脇にペンジョールが立ち並びます。
当日の朝、通りを歩くと、正装した女性たちが供物を並べて祈る姿を目にしますが、いつも以上に豪華に盛られた供物と長く続く祈りに、日常に根ざした信仰の深さを感じました。
クニンガンの朝──送りの祭礼
ガルンガンの10日後の土曜日に巡ってくる「クニンガン」は、迎えた祖先や神々を天に送り返す日で、バリ・ヒンドゥーの中でも特別に重んじられる儀式です。
夜明け前から人々は沐浴で身を清め、大人も子どもも最も美しい伝統衣装を身につけます。
私たちも早朝、スリべダリ通りにある寺院へ向かいました。女性はソカシと呼ばれる供物の籠を頭に載せ、背筋を伸ばして歩いています。その姿は舞踊の華やかさとは異なり、日常に根ざした凛とした美しさでした。

男性たちは白い衣装にサロンをまとい、額に布を巻き、引き締まった表情で歩いています。
寺院から少し離れたところに住む人が、サロン姿で器用にバイクに乗って寺院に出かける姿もあります。家族で出かける姿を見かけると、家族同士のつながりの深さも垣間見ることができます。
ガルンガン・クニンガンをはじめ、年に幾度も巡ってくる祈りの行事を欠かさず家族で守っていることを強く感じます。

寺院の中はたくさんの供物が供えられ、僧侶とともに祈りが捧げられていました。寺院の周りは正装姿の人々でごった返すほどです。
ウブドの通りのあちこちで、通り沿いにある寺院で、同じような光景に出会います。




クニンガンの儀式は午前中で終わります。
正午が近づくと人々は次々に帰路につきます。祭礼を終えた人々のほっとしたような柔らかな笑顔がとても印象的でした。

2025年・2026年の日程
- 2025年
ガルンガン:4月23日(水)/クニンガン:5月3日(土)
2回目:ガルンガン:11月19日(水)/クニンガン:11月29日(土) - 2026年
ガルンガン:6月17日(水)/クニンガン:6月27日(土)
長期滞在を計画するなら、この日程に合わせるのがおすすめです。
ペンジョールの個性と祈り
街中の通りをまわってみると、地域や家庭によってペンジョールの雰囲気がまったく異なることがわかります。
シンプルに椰子の葉だけで清楚にまとめたものもあれば、果物や米を豪華に飾る華やかなものもあります。
基本的に各家庭1本ですが、結婚のあったところは豪華なものが2本立ち、家族を迎えいれる喜びの大きさを感じました。

ペンジョール巡りは、シニア世代の私たちにとって、歩き回らずとも「歩ける範囲をのんびり散策するだけで十分楽しめる」ことが魅力でした。
ホテルスタッフに頼めば、郊外の村まで車で案内してくれることもあり、車窓からもその美しさを堪能できます。
タロ村へ向かう道中のペンジョール
ガルンガン翌日の「マニス・ガルンガン」には、ウブドから車で1時間ほどのタロ村でバロンが集まる祭礼が行われます。
タロ村へ向かう途中の村々もペンジョールで彩られ、それぞれ趣の異なる装飾が続きました。車に乗ったまま眺められるのがありがたいところです。


到着した寺院には各地から集まったバロンが並び、ガムランの響きに包まれながら境内を埋め尽くしていました。

道中で見たペンジョールの景色と重なり合い、この日の体験は忘れがたい思い出となりました。
スリウェダリ通りでの光景
王宮から東へ徒歩5分ほどのスリウェダリ通りは、普段、観光客の姿もあまり見かけない静かなところですが、ガルンガンからクニンガンの時期には一変します。
ペンジョールが競うように並び立ち、その美しさはウブドでも1、2を争うほど。

祭礼の日には壮大なペンジョールの下を、多くの人々が正装姿で寺院へと向かう姿も見られ、この時期はぜひ訪れたい場所です。


祈りの日常
ガルンガンが近づくと、10m以上もの竹を、都ロックやバイクで運ぶ姿をよく目にします。

その竹に男性がヤシの葉や布を巻きつけ、女性や子どもが花などの飾りを加える。家族全員で1本のペンジョールを完成させる過程そのものが祈りであり、信仰を次世代に伝える時間となっています。


観光客には大変そうに見える準備や経済的負担も、バリの人々にとっては当たり前の日常です。
ニュピを迎えるためのオゴオゴ作りや寺院の祭礼、日々の供物と並行して、ペンジョール作りも自然に繰り返されます。
子どもたちも手伝いをする中で、自然と信仰を身につけていく姿に、暮らしと祈りが一体になっていることを強く感じました。
子どもたちのバロン練り歩き


この時期、通りでは男の子たちが太鼓や鐘を鳴らしながらバロンを操る姿をよく見かけます。ウブド市場のなかでもにぎやかに太鼓と鐘の音が響いていました。
バンジャールの資金のために、お布施を集めてまわるのです。お布施をもらった子どもたちの顔が誇らしげに輝くのが微笑ましく、ついお布施をしてしまいます。


シニア世代にとっての魅力
シニアになって実感するのは、旅では「無理をせず楽しむこと」が何より大切だということ。長期に滞在するなら尚更のことです。
この祭礼を挟むの10日あまり、朝の散歩で朝日に照らされたペンジョールを眺め、夕暮れにはアーチの下を歩きながらレストランへ。途中で子どもたちの行列に出会えば拍手を送り、笑顔を交わす。
観光地を急いで巡らずとも、毎日の暮らし自体が楽しみとなる。シニア世代にこそふさわし旅の形です。
まとめ|暮らしと祈りが交わる時間
ガルンガンからクニンガンまでの10日間は、バリ島が最も「バリらしい」姿を見せる特別なときです。
ペンジョールが並ぶ通りを歩き、祈る人々に出会い、子どもたちの舞に迎えられる――それは観光を超えた心に刻まれる体験でした。
次に訪れる際は、ぜひこの10日間の、暮らしと信仰が重なる瞬間に立ち会ってみてください。


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