バリ島・ウブド。南国の光と風に包まれた通りを歩いていると、時おり、手仕事のぬくもりを感じさせる店構えに目を惹かれます。
その中でも静かな存在感を放つのが、アタ製品の専門店「アシタバ」
職人の技が日々の暮らしに溶け込む——それを感じさせてくれるのがアシタバの魅力です。30年以上アタ製品と付き合ってきた経験から、本当に価値のある「育つかご」の選び方をお伝えします。
我が家とアタカゴの長い付き合い
アタ製品との最初の出会いは30年以上も前のことです。夫が出張の帰りにバリで小さなかごを買ってきたのがきっかけでした。
手のひらほどの大きさでしたが、パンを入れたり、小物を整理したりと使い勝手が良く、丈夫なのに軽やか。その自然な質感にすぐに魅了されました。
その後もバリを訪れるたびに買い足してきました。
キッチンではカトラリー入れや鍋敷き、リビングではティッシュケースや小物入れ、………と自宅のあちこちでアタ製品が暮らしを支えてくれています。
使うたびに艶を増し、まるで家族の一員のように成長していく姿を見るのが日々の楽しみになっています。
長年使い続けることで生まれる独特の風合い。新品の時の明るい色合いから、時間をかけてゆっくりと深い飴色に変化していく様子は、まさに「時を刻む道具」という表現がぴったりです。
上質な工芸店

モンキーフォレスト通り南寄りにある「アシタバ」。一歩足を踏み入れただけで上質さが伝わってきます。
艶やかなアタ製品が整然と並んでいます。賑やかな観光地の中にありながら、ここだけは静寂に包まれた工芸美のギャラリーのような雰囲気。
明るく整理された店内では、製品一つひとつが丁寧に配置されており、どのかごも指先で触れるだけでしなやかで滑らかな質感を感じます。
大量生産の土産物とは明らかに違う、手作業ならではの温かみがあります。
特に感動するのは、編み目の緻密さと均一性です。一本一本が丁寧に編まれ、全体的に美しいバランスを保っているのがわかります。
市場で見かける製品とは品質の差が歴然としており、「本物の手仕事」とはこういうものなのだと実感させられます。

内側にバティックの布を貼ったバッグは「アシタバ」だけ

豊富なデザインが並ぶ店内

小物が充実
バリ全体に広がる「アシタバ」というブランド
バリ島全域で高い評価を得ているアシタブランドは、デンパサール郊外に自社工房を構えています。
ここでは熟練した職人たちがアタを一本ずつ丁寧に選別し、細く裂いて均一な太さに整えてから編み込んでいきます。
アタはシダ科の熱帯植物で、その繊維は非常に強靭でありながら柔軟性も兼ね備えています。編み上げた後は太陽の光でじっくりと乾燥させ、最後にココナッツチップで燻すという独特の工程を経ます。
この燻し作業こそがアシタバ特有の深い色合いと香りを生み出す秘訣です。工房を実際に訪れると、香ばしい燻しの香りに包まれながら、職人たちが静かに集中して作業している姿を見ることができます。
一つのかごを完成させるのに要する時間と手間を考えると、その価値の高さを改めて実感します。伝統技術を現代に受け継ぐ職人たちの誇りと情熱が、製品一つひとつに込められているのです。
「良いアタ」と「そうでないアタ」の違い
良質なアタ製品を見極める3つの重要なポイントがあります。
まず編み目の緻密さです。上質なものほど一本一本が均等に編まれており、指で触れると驚くほど滑らかな質感を感じます。
反対に粗い編みのものは表面にザラつきがあり、使い込むうちに型崩れしやすくなります。
次に色の均一性と艶です。アシタバの製品は燻し工程が充分に行われているため、美しく均一な色合いと自然な艶を保っています。
質の劣る製品では色ムラが目立ち、時間の経過とともに変色や色褪せが起こりやすいのが特徴です。
最後に香りです。適切に燻されたアタは穏やかで上品な香りがあり、この香りが防虫効果をもたらします。
確かにアシタバの製品は市場価格より2~3割高めですが、日本で同等品を購入することを考えれば約半額。
耐久性と美しさを長期間維持できることを考慮すると、むしろコストパフォーマンスに優れた選択と言えるでしょう。
上質なものを知ってから、買う楽しみ
バリ滞在中の買い物をより豊かな体験にするために、まずアシタバで「本物の基準」に触れておくことを強くおすすめします。
一度上質な製品の感触や見た目を覚えておくと、その後市場を歩く際に格段に目利きができるようになります。
市場や土産物店でも良質なアタ製品を見つけることは可能ですが、中には編みが粗く色ムラのあるものも混在しています。
価格の安さに惹かれて即決してしまうと、帰国後に「やはり品質に差があった」と後悔することも少なくありません。
特に注意したいのは、一見艶があっても燻し工程が不十分な製品です。購入時は美しく見えても、数年経つと色褪せや変色が起こりやすく、せっかくの旅の思い出が台無しになってしまいます。
アシタバの品質を知ったうえで市場を歩くと、手編みと機械仕上げの違い、適切な燻しの有無など、細かな違いが自然と見分けられるようになります。
こうした目利きの能力があると、市場での買い物がより楽しく、そして賢い選択ができるようになるのです。
アタを細く割けば割くほど目が細かくなるわけですが、そうではないものでも、編み目がつまり色が艶のある飴色であれば決して品質が劣るわけではありません。

左:編み目が大きいけれど目もつまり綺麗な飴色(購入後約20年)
アシタバ以外でも良質なアタ製品を見つけることができます。
例えば、「Pithecanthropus」や「IKATBATIK」のような上質な商品を扱うお店にもアタ製品が置かれています。そういうお店のものは品質が良く、購入後も後悔したことはありません。
アタ製品専門店もありますが、購入の是非の判断は、置かれている商品が「全て良質かどうか」です。もし、色褪せたり編みが緩い商品が混じっていたら、購入を控えるのが無難です。
おおよその価格の目安
アシタバでは全商品に明確な価格表示がされており、値札はすべてルピア建てで表示されています。交渉の必要がなく、安心して買い物を楽しめるのも魅力の一つです。
2025年現在の価格目安をご紹介します:
これらの価格帯で最高品質のアタ製品を手に入れられるのは、現地ならではの特権です。日本で同等の品質を求めれば確実に倍以上の価格になるでしょう。
アシタバでは小物類が充実。コースター1枚約200円から購入できるのでお土産としても最適。また、使い勝手のいいオリジナルデザインがあるのも嬉しいところです。
実用性と美しさを兼ね備えた逸品を、これほど手頃な価格で入手できる機会は滅多にありません。
日常に溶け込む“暮らしのアタ”

アタ製品の最大の魅力は、あらゆるインテリアスタイルに自然に調和することです。
和風の空間では畳や木材と美しく馴染み、洋風のリビングではモダンな家具との絶妙なバランスを生み出します。
我が家での活用例をご紹介しましょう。
朝食時にはランチョンマットとして使用し、和食器にも洋食器にも上品な背景を提供してくれます。
リビングでは雑誌や新聞を入れるマガジンラックや雑多ものを入れる整理カゴ、キッチンではカトラリー入れや調味料トレー、コースターとして大活躍。グラタンや茶碗蒸しを出す時も敷き皿として重宝します。




バスルームではタオルを収納するカゴとして使用しています。屑入れとしてもつかっていますが、どこにおいても洒落たインテリアのように馴染んでいます。



トイレットペーパー入れでも、屑入れでも、インテリアの一部に
湿気の多い環境でもカビることなく、むしろ使い込むほどに味わいが増しています。
年に一度、スチーム洗浄で隅の埃をとりますが、色艶に変化はありません。
感慨深いのは30年前から使い続けているかごの変化。毎日手に取っているにも関わらず、壊れる気配は全くありません。それどころか、年月を重ねるごとに色合いが深まり、まるで家族の歴史を刻んできたような特別な存在感を放っています。

30年前、一番最初に買ったアタカゴ
現代社会では使い捨ての製品が多い中、アタ製品は「共に歳を重ねる道具」として、物を大切にする心を教えてくれる存在でもあります。
まとめ|旅で出会い、暮らしで育てるアタカゴ
ウブドで出会うアタカゴは、単なる工芸品を超えた「時間を育てる器」です。30年以上にわたる体験から学んだ、アタ製品選びと楽しみ方をまとめてご紹介しました。
【品質チェックポイント】
- 編み目の緻密さと均一性
- 色の美しさと艶の自然さ
- 燻しの香りと防虫効果の有無
【賢い購入戦略】
- まずアシタバで最高品質を体感
- 基準を知ったうえで市場を探索
- 日本価格の約半額で上質品を入手可能
【暮らしでの魅力】
- 和洋どちらのインテリアにも調和
- 使い込むほどに深まる色合いと質感
- 世代を超えて愛用できる耐久性
バリの職人たちが時間をかけて編み上げたアタカゴは、私たちの暮らしの中で静かに成長し続けます。
旅先で手に取った一品が、帰国後も毎日の生活を豊かに彩ってくれる——そんな持続的な喜びを与えてくれるのが、本物のアタ製品の真価です。
ウブドを訪れる際には、ぜひアシタバで「育つかご」との出会いを体験してください。それは間違いなく、旅の最も価値ある思い出の一つとなるでしょう。

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